地方におけるリアリティ

地方におけるリアリティ その場に適したものは何かを常に真摯に考えること

その場に適したものは何かを常に真摯に考えること「建築は単体では成立し得ない」私たちは、設計活動を行うときに、そのことをいつも忘れないようにしている。建物を使う人々や周辺環境である自然や都市・風景またはそれを取り巻く時代背景などとの関係性においてはじめて成立するからだ。私たちがこれまで生み出す建築は、城下町、郊外住宅地、田園地域と異なった場所に建つ。それぞれ地方のリアリティと向かい合った結果として生まれたものである。

私たちは、大阪と名古屋のほぼ中間に位置する、三重県西部の地方都市で設計活動を行っている。これまで、手掛ける建築が郊外の風景を生き生きとした姿に変えるきっかけになればという理想をもって設計を進めてきた。その中でも大切にしているのが「場所」だ。プロジェクトの機会を得るたびに、それぞれの場所が抱える課題と向き合うことになる。要望などを聞く前に敷地や周辺を歩き、純粋にこの場所にどんな建築が立ち上がるのが、想像する瞬間を大切にしている。場所が求めていることを自分が今まで経験した空間体験、都市体験のなかから紐解きイメージしていく。私たちは、ひとつのスタイルへの執着やまた地域土着的に凝り固まるのではなく、その場所に適したものは何かを常に真摯に考えること。そのことにより場所固有の課題に取り組みでありながら普遍性を獲得し、建築を閉じることなく社会と接続できるのではないかと思っている。

一方で廃墟になったあとにも美しくその場所にある建築をつくりたいとも思う。郊外で暮らしている人ならわかるだろうが、地方では都市部のようなスピードでスクラップアンドビルドが繰り返されるわけではない。一度つくられたものは、なかなかなくならない。うまく次の使い手が見つかればいいが、そのままの姿で放置される場合も多い。その時、残るものは何だろうかと考えると、時間軸に耐えうる骨太の美しいシルエットの建築をつくりたいと思う。朽ちかけた倉庫が美しく見えることに似ているかもしれない。それが建築家の最低限の仕事ではないだろうか。