敷地は郊外の幹線道路から少し外れた住宅地内にある。郊外の特徴のひとつであるが、車でのアクセスに対応するために約20台というかなり大きな駐車場とロータリーを求められた。そのため、敷地前面には広い駐車場を確保し、建物自体は敷地の奥にセットバックして道路から距離をとってL字型に配置している。また、クリニックというプライベートな空間であるため、住宅やアパートに囲まれた旗竿型の不整形な敷地で、周囲からの視線にも配慮して進めている。
「緑が患者さんへの癒しになる」という院長先生の考えから、周囲からの視線は遮りつつも建物と植栽、庭と内部空間が融合するクリニックを目指した。建物だけを取り上げると、1階部分を重厚で安定感のあるコンクリート、2階部分を軽快で清涼感のあるアルミ・スパンドレルで仕上げたシンプルなL字型の現代建築である。その中の待合や中待合、内科の3つの診療室からも見える中庭や前庭を設け、自然光や風景が入り込み、できるだけリラックスする空間にした。1階は機能性を重視した広々とした回遊性のあるクリニック、2階部分にはプライバシーを確保したリフレッシュコート、水廻りや院長室を配置して、明快に空間の使い方を切り分けている。
前庭や中庭の植栽は、クライアントの知人の造園家と初期段階から協同して決定している。樹種ごとの枝ぶりや高さなどの検討から初め、コンクリートやアルミなどの現代的な建築と、自然に配置された柔らかな枝ぶりの樹木が調和し、人々に親しみやすい環境を実現したつもりである。
シンプルな建物の表には、三日月形の大庇を設けている。これは車寄せや雨除けの機能に加えて植栽の場所を確保し、さらに離れた道路からでも存在感がある建物のランドマークとなる要である。これまで曲面のデザインを避けてきた当事務所にとって、郊外の環境で建物の表情を作るこの大庇は新鮮な挑戦となった。