「城下町伊賀上野の地域特性を活かした新しい風景のデザイン、景観地域でのオフィスと住居の在り方を追求する」ことをテーマに計画した。
伊賀上野の景観区域に建つオフィス兼住宅の計画である。伊賀上野は城下町として栄え、お城に近い通りから順に本町通り・二之町通り・三之町通りの三筋があり、敷地は武士や商人が住んでいた「三之町通り」に接道する。かつての面影を残してた歴史あるこの街並みに敬意を払いながら計画を進めた。
私たちは「通りに面した土塀や門、外壁によって壁面ラインをそろえる」という三之町通りの街並みの骨格を維持しつつ、現代の生活にも対応した建物を計画した。オフィスと来客・住居用の駐車場を建物の一部として取り込み、全体を瓦屋根で覆うことで屋根軒線の連続性を保ち、都市景観の骨格を生かしたシンプルな構成とした。瓦の大屋根と桧格子による外観がオフィスの特徴的なサインとなり、景観を損ねるような看板サインがなくても認識されるよう意図している。
また道路に面して平屋のオフィス・駐車場を配置し、2つの中庭を挟んで敷地の奥に住居を配置した。そうすることで街の骨格を守りながら住居のボリュームを確保しつつ、道路とオフィス、オフィスと住居がそれぞれ適度に距離を取る関係性を作っている。
住まいは共働きと職住近接を考慮して、キッチンを中心にした最短距離での家事動線となるように計画した。また、オフィスとの間に中庭を設けることでリビング・ダイニングや子供室などの各部屋に光と風を呼び込み、快適な住まいになる。木デッキの住居用中庭、そして床石と敷瓦による事務所庭を設置して、プライバシーの確保とともに2種類の庭を楽しことができる贅沢な生活空間を用意している。
構造材・造作材をはじめ、格子・外壁・軒裏などで使用した木材は可能な限り県産材を用いて、環境への配慮とともに地元林業の活性化に寄与している。また出来るだけ職人の手加工による仕事を活用して、この地域での伝統技術の継承につなげたいと思った。
「周辺環境との調和・オフィスの防犯・光と視線の調整」の3つの機能をもつ桧格子(30×90@100)は、実寸のモックアップをつくって、寸法や固定方法などを大工とともに検討している。また軒樋は必要な勾配を確保しながら屋根の軒線ラインを水平に通すために2重樋とした。
敷地周辺を含む「伊賀上野城下町の文化的景観」は「日本の20世紀遺産20選」に選定されている。戦災を免れたため、城下町開設時の町割が現在も保たれていることが大きな要因という。しかし家屋の建替えが進み、その多くは道路側に駐車場を確保するために建物が道路から後退している。またかつて武家屋敷だった大きな区画が無造作に数区画に分割され、分譲された箇所も見られる。そのため瓦屋根の軒先、格子、土塀による沿道景観が崩れ、個性が失われつつある。
こうした中で景観を守り、先導していくために建築・デザインが持つ責任は大きい。本計画が崩れつつある伊賀上野の城下町景観に対する意識と誇りを取り戻すきっかけになることを祈っている。